ABWとは?フリーアドレスとの違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説

近年、働き方の多様化が進む中で「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」というワークスタイルが注目を集めています。従業員が業務内容に応じて働く場所を自律的に選べるこの働き方は、生産性の向上や従業員満足度の向上に繋がるとして、多くの企業で導入が検討されています。
本記事では、ABWの基本的な考え方から、フリーアドレスとの違い、導入のメリット・デメリット、そして成功に導くための具体的なステップまで、オフィス移転・改装を手がける株式会社オリバーが分かりやすく解説します。
ABWとは?新しい働き方の基本を解説

ABWは、従来の固定席で働くという概念を覆す、新しいワークスタイルです。まずは、その基本的な定義と、混同されがちなフリーアドレスとの違い、そしてなぜ今これほどまでに注目されているのかを解説します。
業務内容に合わせて働く場所を自律的に選ぶ働き方
ABW(Activity Based Working)とは、その名の通り「アクティビティ(活動内容)」に基づいて、従業員自身が最も生産性が上がると判断した場所で働くワークスタイルを指します。 例えば、集中して資料を作成したい時は静かな個室ブース、チームでアイデアを出し合いたい時はリラックスできるカフェスペース、Web会議に参加する際は専用の個室など、その時々の業務に最適な環境を選びます。
働く場所はオフィス内に留まらず、自宅やカフェ、サテライトオフィスなども含まれます。
フリーアドレスとの決定的な違い
ABWとよく似た言葉に「フリーアドレス」がありますが、両者には明確な違いが存在します。フリーアドレスは、オフィス内で自分の席を固定せず、空いている席を自由に使う「座席ルール」を指します。働く場所はオフィス内に限定されるのが一般的です。 一方、ABWは単なる座席の自由に留まらず、「業務の生産性を最大化すること」を目的とし、オフィス内外を問わず働く場所を選択する「働き方の概念」そのものを指します。
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項目
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ABW
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フリーアドレス
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目的
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業務の生産性向上
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スペースの効率化、 コミュニケーション活性化 |
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場所の範囲
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オフィス内 (自宅、カフェ等も含む) |
オフィス内のみ
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考え方の基盤
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業務内容(アクティビティ)
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座席の自由化
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<フリーアドレスについて詳細を見る>
→ フリーアドレスとは?オフィスに導入するとどんな働き方になる?事例とアンケート結果も紹介
なぜ今、ABWが注目されているのか
ABWが注目される背景には、働き方改革の推進や、新型コロナウイルス感染症の拡大によるテレワークの普及が大きく影響しています。 企業は従業員の多様な働き方を許容し、より柔軟で生産性の高い労働環境を提供する必要に迫られています。
ABWは、従業員の自律性を尊重し、個々のパフォーマンスを最大化させる可能性を秘めているため、現代のビジネス環境に適した働き方として導入する企業が増えているのです。
ABWを導入する5つのメリット

ABWの導入は、企業と従業員の双方に多くの利点をもたらします。ここでは、代表的な5つのメリットについて具体的に見ていきましょう。
従業員の生産性が向上する
最大のメリットは、生産性の向上です。 従業員が自身の業務内容に最も適した環境を選ぶことで、集中力や創造性が高まります。例えば、騒がしいオフィスでは集中できない作業も、静かな集中ブースで行うことで効率が格段に上がります。このように、環境を仕事内容に最適化させることで、業務の質とスピードの向上が期待できるのです。
従業員の満足度と自律性が高まる
従業員が働く場所や時間を自律的に選択できることは、仕事への満足度を大きく向上させます。 裁量権が与えられることで、従業員はより主体的に業務に取り組むようになり、モチベーションの向上にも繋がります。また、通勤時間の削減や、育児・介護との両立がしやすくなるなど、ワークライフバランスの改善にも寄与します。
→ 従業員エンゲージメントとは?オフィス改装などの施策で築く双方向的な信頼関係
オフィスコストの削減につながる
ABWを導入すると、従業員全員分の固定席を用意する必要がなくなります。テレワークやサテライトオフィスの活用が進めば、オフィスに出社する従業員の数も変動するため、オフィスの規模を最適化することが可能です。 結果として、オフィスの賃料や光熱費、設備投資などのファシリティコストを削減できます。
優秀な人材の確保と定着が期待できる
柔軟で自由度の高い働き方を提供している企業は、求職者にとって非常に魅力的です。 特に、多様な働き方を求める現代において、ABWの導入は企業の採用競争力を高める要因となります。
また、働きやすい環境は既存の従業員の満足度を高め、離職率の低下、つまり人材の定着にも繋がるでしょう。
部署を超えたコミュニケーションが活性化する
オフィス内で働く場所が固定されないため、普段は接点のない他部署の従業員と隣り合わせになる機会が増えます。これにより、偶発的なコミュニケーションが生まれやすくなり、部署の垣根を越えたアイデアの創出やコラボレーションが促進される効果が期待できます。
→ コミュニケーションが生まれるオフィス空間に必要なポイント|事例&アンケート
ABW導入前に知っておきたいデメリットと対策

多くのメリットがある一方で、ABWの導入にはいくつかの課題も伴います。事前にデメリットを理解し、対策を講じることが成功の鍵となります。
労務管理が複雑になる
従業員がオフィス内外の様々な場所で働くため、誰がどこで何時間働いているのかを正確に把握することが難しくなります。 これまでの勤怠管理システムでは対応できない場合もあり、適切な労働時間管理や公正な人事評価制度の構築が課題となります。
対策として、クラウド型の勤怠管理ツールや、業務の進捗を可視化するプロジェクト管理ツールを導入し、成果に基づいた評価制度を整備することが重要です。
コミュニケーションが不足する可能性がある
顔を合わせる機会が減ることで、チーム内での情報共有が滞ったり、一体感が希薄になったりする可能性があります。 特に、業務上の相談や何気ない雑談から生まれるアイデアが減ってしまうことは大きな損失です。
対策として、ビジネスチャットやWeb会議システムなどのコミュニケーションツールを積極的に活用し、定期的なチームミーティングや1on1ミーティングの機会を設けるなど、意図的にコミュニケーションの場を作ることが求められます。
初期コストと環境整備の時間が必要になる
ABWを実現するためには、オフィスのレイアウト変更や、多様なワークスペースの設置、ITインフラの整備など、初期投資が必要です。 また、制度設計や社員への周知など、導入までには相応の時間と労力がかかります。
対策として、導入目的を明確にし、費用対効果を慎重に検討することが大切です。一部の部署からスモールスタートするなど、段階的な導入も有効な手段です。
セキュリティリスクが高まる
社外で業務を行う機会が増えることで、PCの紛失や盗難、公共Wi-Fiの利用による情報漏洩などのセキュリティリスクが高まります。
対策として、 VPN接続の義務化、デバイスの暗号化、セキュリティソフトの導入といった技術的な対策はもちろん、従業員一人ひとりへのセキュリティ教育を徹底し、ルールを明文化することが不可欠です。
ABW導入を成功させるための6つのステップ

ABWの導入は、単にオフィスレイアウトを変更するだけでは成功しません。計画的かつ段階的に進めることが重要です。ここでは、導入を成功に導くための6つのステップを解説します。
Step1:導入目的を明確にする
最初に、「なぜABWを導入するのか」という目的を明確にすることが最も重要です。 「生産性を向上させたい」「従業員満足度を高めたい」「コストを削減したい」など、企業が抱える課題と結びつけて目的を設定します。この目的が、今後の全ての判断基準となります。
Step2:現状の働き方と課題を調査する
次に、従業員の現在の働き方を調査し、課題を洗い出します。 アンケートやヒアリングを通じて、従業員がどのような業務に時間を費やし、どのような環境で働いているか、現状のオフィスにどのような不満や要望を持っているかを把握します。この現状分析が、自社に最適なABWの形を設計するための基礎となります。
Step3:ABWに対応したオフィスレイアウトを設計する
調査結果に基づき、ABWに対応したオフィスレイアウトを設計します。集中作業のためのソロブース、複数人での協業に適したコラボレーションスペース、リラックスしながら作業できるカフェエリアなど、多様なアクティビティに対応できる様々な種類のスペースを用意することがポイントです。
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スペースの種類
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主なアクティビティ(活動内容)
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集中ブース
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高い集中を要する個人作業、資料作成
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コラボレーションエリア
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チームでのディスカッション、
ブレインストーミング |
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Web会議ブース
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オンラインでの会議、商談
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カフェ/ラウンジエリア
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休憩、簡単な打ち合わせ、
偶発的なコミュニケーション |
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タッチダウンスペース
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短時間のメールチェックや作業
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Step4:就業規則や評価制度を見直す
ABWという新しい働き方に合わせて、既存の就業規則や人事評価制度を見直す必要があります。 テレワーク勤務規程の策定や、勤怠管理方法の変更、そして時間や場所ではなく成果で評価する仕組みの導入などが求められます。従業員が安心して新しい働き方に移行できるよう、ルールを明確に整備します。
Step5:ITツールとセキュリティ環境を整備する
場所を選ばずにスムーズに業務を行えるよう、IT環境の整備は不可欠です。ノートPCやスマートフォンの貸与、クラウドストレージの活用、コミュニケーションツールの導入などを進めます。同時に、前述したセキュリティ対策を徹底し、安全な業務環境を構築します。
Step6:トライアル導入と改善を行う
全ての準備が整ったら、いきなり全社で導入するのではなく、特定の部署やチームで試験的に導入(トライアル)することをおすすめします。実際に運用してみることで見えてくる課題を収集し、改善を繰り返しながら、徐々に全社へと展開していくことで、導入の失敗リスクを低減できます。
ABW導入の成功事例
実際にABWを導入し、成功を収めている企業の事例をご紹介します。
株式会社渡敬様 秋田支店の取り組み

文具事務機器の専門販売会社である株式会社渡敬様では、秋田支店の新事務所建設において、ABWに適応したゾーニングを導入しました。ブルックリンをイメージしたインダストリアルテイストな空間の中に、チームワークスペース、ライブラリースペース、ゲストスペースなど、気分や目的に合わせて最適な環境を選択できるエリアを設けています。
機能的な動線計画や高低差によるエリア分けにより、従業員が自由に働く場所を選択できる環境を実現しています。
<事例を詳しく見る>
→ ABWに適応した、働き方を自由に選択できるオフィス
株式会社ヒノキヤグループ様の完全フリーアドレス化

不動産業界の株式会社ヒノキヤグループ様では、従業員自身が自由に働く場所を選べる「完全フリーアドレス」を導入したオフィス改革を実施しました。2つの執務エリアをつなぐラウンジエリアには、ソファエリア、窓際席、ビッグテーブルなど、好みに応じて選択できる多様なワークスペースを配置しています。
間仕切りを最小限にしたオープンスペースと併せて、年代や職位、部門を超えたコミュニケーション機会の創出を目指した空間になっています。
<事例を詳しく見る>
→ コミュニケーション活性化と業務効率改善を目指したオフィス
株式会社働楽ホールディングス様の遊び心を大切にしたオフィス

IT業界の株式会社働楽ホールディングス様では、働きやすさ、コミュニケーションの活性化、リクルーティングに配慮したゾーニングを導入しました。卓球台としても利用できるミーティングテーブルやカフェカウンターを設置することで、コミュニケーションを活性化しています。
オフィスを移転してから、社内満足度だけでなく対外プレゼンス向上にも効果が出ています。
<事例を詳しく見る>
→ 遊び心を大切にし、コミュニケーションを誘発するオフィス
まとめ
以上、オフィス移転・改装を手がける株式会社オリバーの視点から、
について、解説しました。ABWは、従業員の自律性を促し、生産性と満足度を向上させる可能性を秘めた、現代に適した働き方です。しかし、その導入を成功させるためには、明確な目的設定、周到な準備、そして従業員の理解が不可欠です。
本記事で紹介したメリット、デメリット、導入ステップを参考に、自社にとって最適な働き方の実現を検討してみてはいかがでしょうか。